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神戸地方裁判所 昭和62年(行ウ)19号 判決

神戸市中央区伊藤町一一九番地

原告兼有限会社太平洋商会訴訟承継人

有限会社ラジトレイディングコーポレイション

右代表者代表取締役

ハンスラジ・カルヤンジ・カンジ

右訴訟代理人弁護士

辰野久夫

藤井司

佐伯照道

八代紀彦

山口孝司

天野勝介

中島健仁

神戸市中央区中山手通二丁目二番二〇号

被告兼灘税務署長訴訟承継人

神戸税務署長 藤本清一

右指定代理人

阿多麻子

廣瀬彰四郎

桑名義信

北島昭二

松田光弘

主文

一  被告が原告に対して昭和六〇年三月三〇日付けでした昭和五七年八月三日から同年九月三〇日までの事業年度の法人税にかかる更正及び重加算税賦課決定(ただし、国税不服審判所長が昭和六二年二月五日付けでした裁決により取り消された残余の部分)のうち、所得金額三一〇万七六七五円を超えない部分の取消しを求める訴えを却下する。

二  灘税務署長が有限会社太平洋商会に対して昭和六〇年三月三〇日付けでした昭和五六年一〇月一日から昭和五七年九月三〇日までの事業年度の法人税にかかる更正及び重加算税賦課決定(ただし、昭和六〇年六月二九日付けでした右処分を減額する更正及び重加算税賦課決定後のもので、かつ国税不服審判所長が昭和六二年二月五日付けでした裁決により取り消された残余の部分)のうち、

1  所得金額八四六八万〇〇二一円を超えない部分の取消しを求める訴えを却下する。

2  所得金額二億二七五六万三〇一一円を超える部分を取り消す。

三  原告のその余の請求をいずれも棄却する。

四  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

一  被告が原告に対して昭和六〇年三月三〇日付けでした昭和五七年八月三日から同年九月三〇日まで、昭和五七年一〇月一日から昭和五八年九月三〇日まで、昭和五八年一〇月一日から昭和五九年九月三〇日までの各事業年度の法人税にかかる更正及び重加算税賦課決定のうち、国税不服審判所長が昭和六二年二月五日付けでした裁決により取り消された残余の部分を取り消す。

二  灘税務署長が有限会社太平洋商会に対して昭和六〇年三月三〇日付けでした昭和五五年一〇月一日から昭和五六年九月三〇日まで、昭和五六年一〇月一日から昭和五七年九月三〇日まで、昭和五七年一〇月一日から昭和五八年九月三〇日まで、昭和五八年一〇月一日から昭和五九年九月三〇日までの各事業年度の法人税にかかる更正及び重加算税賦課決定(昭和五六年一〇月一日から昭和五七年九月三〇日までの事業年度については、昭和六〇年六月二九日付けでした右処分を減額する更正及び重加算税賦課決定後のもの)のうち、国税不服審判所長が昭和六二年二月五日付けでした裁決により取り消された残余の部分を取り消す。

第二事案の概要

一  本件は、有限会社太平洋商会(以下「太平洋商会」という。)及び原告(以下、両社を併せて「原告ら」という。)が、アフガニスタン民主共和国に商品を輸出する際に、香港法人であるパシフィックトレーダース(以下「PT」という。)を中間買主として取引をしたとして、PTへの売買代金額を所得金額として法人税の確定申告をしたのに対し、灘税務署長及び被告が、原告らに対し、これらの取引はアフガニスタンの現地買主(以下、単に「現地買主」という。)と直接なされたものであるから、現地買主への売買代金額が所得金額であるとして、右所得金額と申告額との差額(以下「本件差額」という。)を所得金額に算入する更正及び重加算税の賦課決定処分をしたので、原告らが右処分の取消しを求めた事案である。

二  争いのない事実

1  原告らは、いずれも電気製品、日用雑貨等の輸出を業とする有限会社である。

2  被告は、原告に対し、昭和六〇年三月三〇日付けで、昭和五七年八月三日から同年九月三〇日まで(以下、各事業年度について「昭和五七年九月期」等という。)、昭和五八年九月期、昭和五九年九月期の各事業年度の法人税について、別表一の一1ないし3の各〈2〉のとおり、更正及び重加算税賦課決定処分をした。

3  灘税務署長は、太平洋商会に対し、昭和六〇年三月三〇日付けで、昭和五五年一〇月一日から昭和五六年九月三〇日まで(以下、各事業年度について、「昭和五六年九月期」等という。)昭和五七年九月期、昭和五八年九月期、昭和五九年九月期の各事業年度の法人税について、別表一の二1ないし4の各〈2〉のとおり、更正及び重加算税賦課決定処分をした(以下、これらの処分を併せて「本件処分」という。)。

なお、昭和五七年九月期については、昭和六〇年六月二九日付けで、別表一の二2〈2〉のとおり、減額更正及び重加算税賦課決定処分がなされた。

4  原告らは、本件処分について、昭和六〇年五月一〇日、国税不服審判所長に対して審査請求をしたが、国税不服審判所長は、原告らに対し、昭和六二年二月五日付けで、別表一の一、二の各〈3〉のとおりの裁決(以下「本件裁決」という。)をし、原告らは、同月二〇日ころ、その裁決の通知を受けた。

以上の本件処分等の概要は、別表一のとおりである。

5  太平洋商会は、昭和六三年一〇月一日、原告と合併したことにより解散し、原告は、太平洋商会の一切の権利義務関係を承継し、被告は、行政事件訴訟法一一条一項但書に基づき、本件訴訟に関する灘税務署長の権限を承継した。

6  本件処分の対象になった取引(以下「本件取引」という。)は、いずれも原告らが日本で仕入れた商品をアフガニスタン(以下「現地」という。)に向けて船舶により輸出してなされたものである。

三  争点

1  本件取引の買主は現地買主かPTか。

2  本件取引の売買代金額はいくらか。

四  争点についての当事者の主張

(被告の主張)

1 次の事実によれば、本件取引の買主は現地買主であり、原告らは、PTを介入させることにより、原告らの利益を圧縮させようとしたのである。

(一) 本件取引に関して作成されたセールスコントラクト(sales contract、以下「売買契約書」という。)、ステイトメント・オブ・アカウンツ(statement of accounts、以下「勘定表」という。)、プロフォーマ・インボイス(proforma invoice、以下「見積送り状」という。)及びインボイス(invoice、以下「送り状」という。)には、現地買主の記載があるが、PTが買主であることを示す記載はない。

(二) 原告らは、現地買主の一人であるイシャン・モハマド・カワジャ・アンド・ブラザーズ(以下「IMK」という。)と直接売買契約書を交わしている。

原告らは、IMKとの間で、本件取引にかかる相互の債権債務を記載した勘定表を交わしており、本件取引の中には、原告が直接IMKに現地買受代金の支払いを督促したり、代金の受領を確認したものがある。

(三) 原告らは、PTとの通信文において、PTを代理店又は信用提供者と表現している。

(四) 本件取引の商品に付された海上保険の保険金額を一・一で除した金額と見積送り状に記載された売上金額とはほぼ一致しているから、見積送り状は、売買契約の内容を示すものであり、単なる見積書ではない。

(五) 本件取引の中には、PTが現地買主からの入金を受けた後に、これを原告に送金し、原告が商品を船積みしているものがあり、また、PTが中間買主としては考えられない高い利益を上げることになるものがあるから、PTが現地業者の支払能力に不安がある場合に中間買主として介入しているとはいえない。

(六) 香港は軽課税国であり、原告らは、本件取引による売上の一部をPTの利益にすることによって、課税を軽減することができる。

2 次の事実によれば、売買代金額は、見積送り状、売買契約書、勘定表に記載された金額又は海上保険の保険金額を一・一で除した金額であり、右金額と申告額との差額が所得金額に含まれるべきである。

(一) 本件取引の買主は現地買主であるから、見積送り状、売買契約書、勘定表に記載されている価格は、現地買主への売買金額を表示している。

(二) 本件取引の商品に付された海上保険の保険金額は、現地買主の買受額に一・一を乗じた金額にするのが国際慣行であるから、この保険金額を一・一で除した金額は買主の買受額と一致する。

3 原告は、IMKとの取引に関する本件差額について、PTが原告らに売買代金を立て替えたり、現地の代理店等に対して手数料を支払ったりしたことに対する支払手数料であるから、損金に算入されるものとして課税対象にならないと主張する。しかし、PTが、本件取引において、この様な役割を果たした事実はないから、本件差額が損金であるとはいえない。

4 したがって、本件差額は本件取引における売買代金に含まれるから、これを課税対象にした本件処分はいずれも適法である。

(原告の主張)

1 次の事実によれば、本件取引は、原告らがPTに商品を販売し、PTが現地の買主に転売したものといえるから、本件取引における買主はPTであり、現地買主ではない。

(一) 原告らは、商品をアフガニスタンに輸出する際、同地の不穏な政治、経済情勢や現地買主の支払能力等から、現地買主の代金支払いに危険がある場合に、中間買主としてPTを介入させてきた。

(二) 原告らは、本件取引について、PTとの最終的な合意に基づいて、シッピング・インストラクション(shipping instruction、以下「船積指図書」という。)、送り状及び輸出報告書を作成している。

送り状は、貿易実務において、出荷案内書、明細書、代金請求書の役割を兼ねるものであり、送り状の送付先及び記載内容は、買主が誰かを示すものであるところ、本件取引において、送り状はPT又はPTが指示する第三者に送付されており、送り状に記載された代金額は、PTから前受金により入金されている。

原告らは、本件取引において、送り上の外、船荷証券、海上保険証券などの船積書類もすべてPTに送付しており、アフガニスタンの現地買主には送っていない。

(三) 売買契約書、勘定書、見積送り状、送り状には、宛先として現地買主は記載されているが、PTは記載されていない。

しかし、次の事実によれば、このことから直ちに本件取引の買主が現地買主であるとはいえない。

(1) 売買契約書は、大口の現地買主であるIMKが来日した際に、将来の商品引渡し予定の確認のために作成されたものに過ぎず、実際の取引がこのとおりに行われるとは限らない。

(2) 勘定表は、IMKが来日した際に、IMKが買い受けた商品の代金額や船積状況等を報告した書類に過ぎない。

(3) 見積送り状は、現地買主から引き合いがあった際に、現地買主の要請により発行する見積書に過ぎず、実際の取引がこのとおりに行われるとは限らない。

(4) 見積送り状等に記載される宛名は、買主ではなく荷受人(コンサイニー、consignee)であり、単なる通関名義人に過ぎないものであって、実際の買主でない者の名が使用されることも多い。

(四) 原告らは、本件取引で海上保険を付する際、現地買主の買受額に一・一等を乗じた金額を保険金額としているが、これは、本件取引において、商品がアフガニスタンに直接輸出されるからであり、このことから直ちに本件取引の買主が現地買主であるとはいえない。

(五) 原告らは、通信文などにおいて、PTを代理人、資金又は信用提供者と表現しているが、これは、現地買主の代金支払能力に不安がある場合にPTが介入することを経済的な意味で表現したものに過ぎない。

(六) 本件取引に関して、代金不払いの場合の危険を負担し、現地買主からのクレームを処理しているのはPTであり、原告らではない。

2 本件取引の売上金額は、次の事実によれば、送り状及び輸出報告書に記載された金額によって算出されるべきである。

(一) 送り状は、PTとの取引について、最終的に決定された内容に従い、船積みの前に必ず発行され、PT又はPTが指示する第三者に送付されるものであり、これにはPTからの入金額が記載されている。

また、税関に提出された輸出報告書には、PTからの入金額、つまり送り状に記載された金額が記載されており、これと異なる金額が記載されていると税関を通ることはできない。

(二) 見積送り状、勘定書及び売買契約書は、現地買主との売買交渉に入る前に見地買主の要請により作成されたものに過ぎず、この記載のとおりに取引が成立するとは限らない。

3 仮に、PTが本件取引の買主ではないとしても、IMKとの取引に関する本件差額は、PTが原告らに売買代金を立て替えて支払ったり、現地の代理店等に対して手数料を支払ったりしたことに対する支払手数料であるから、損金に算入されるものであり、課税対象にならない。

4 したがって、本件差額を課税対象にした本件処分はいずれも違法である。

第三争点等についての判断

一  納税者が確定申告書を提出すれば、原則としてそれによって納税義務が確定するのであって(国税通則法一六条)、納税者が確定申告書の記載の錯誤無効を主張しうる特段の事情がある場合を除いて、納税者が自己の申告にかかる所得金額の減額を求めるためには、所定期間内に更正の請求(国税通則法二三条、法人税八二条)をすることが必要である。そうすると、納税者がこの手続を経ない場合は、税務署長による増額更正のうち申告額を超えない部分は納税者にとって不利益な処分であるということはできないから、その取消請求は訴えの利益を欠き不適法であるというべきである。

したがって、本件訴えは、原告の昭和五七年九月期の更正について原告の申告した所得金額三一〇万七六七五円を超えない部分及び太平洋商会の昭和昭和五七年九月期の更正について太平洋商会が申告した所得金額八四六八万〇〇二一円を超えない部分についてまでその取消しを求めるものであるから、右各部分の取消請求は、訴えの利益を欠き不適法であるから、却下すべきである。

二  争点1 (本件取引の買主)について

1  本件取引がいずれも原告らが日本で仕入れた商品を船舶により現地に直接輸出するものであったこと、原告らが直接現地の者と売買をした取引が本件取引の他に多数あること、原告らが、これらの取引をする際に見積送り状を作成し、商品を輸出する際に、通関手続に必要な船積書類として船積指図書、送り状、輸出報告書を作成し、商品に海上保険を付したこと、これらの書類において、荷受人等として現地の者が記載されており、PTの名が記載されていないこと、本件取引において、送り状に記載された売買価格又は商品単価が見積送り状に記載された売買価格又は商品単価の九割前後であること、原告らが本件取引の売買代金をPTからの前受金として総勘定元帳に記載していたことは、当事者間に争いがない。

2  原告らの本件取引への関与状況

(一)(1) 証拠(乙四の1、2、五の1、2、六の1、2、一六の1、2、一七の1、2、二五の1、2)によれば、原告らは、IMKとの間で、昭和五八年一月二三日から同年二月二八日までに、六通の書面をファックス等でやりとりし、商品の内容、代金支払、商品の船積みの状況を相互に確認していること、この中で、原告らは、IMKに対し、IMKとの協力関係が一層発展することを望んでいる、IMKからの未払代金の一部をIMKへの貸方つまり売掛債権として処理する、IMKからの支払いは商品の船積みの前一か月以内になされるべきである、発送した商品について値引きの余地はない等と述べたことが認められる。

(2) 原告らが、IMKとの間で、昭和五七年三月ころ、原告らが作成した勘定表(乙二二)を取り交わしていることは当事者間に争いがないところ、この勘定表には、貸方欄(CREDIT)、借方欄(DEBIT)に分けて、IMKとの取引における支払額、未払額、商品名等が記載されていることから、原告らとIMKが、勘定表によって債権債務の内容を相互に確認していたことが認められる。

(3) 原告は、右書面について、大口の顧客で、唯一英語の通じる相手であるIMKが来日した際等に、IMKとの間に限って、商品引渡の予定について確認し、又は商品の代金額や船積状況を報告したものに過ぎないと主張する。

しかし、右書面の内容は、取引予定の確認や取引結果の報告に留まるものとはいえず、また、仮にPTが買主であるならば、原告らが、PTの意向を聞かずに、PTの取引相手に対してこのような代金支払請求や債権債務の確認等をすることは通常考えられないから、原告の右主張を採用することはできない。

(二) 証拠(乙二四の1、2)によれば、PTは、原告らに対し、昭和五八年五月、原告らが既に船積みを終えた取引(取引番号TA-六四九及びTD-八二九)について、二度にわたり、代金額、商品の送り先、勘定表への記載方法についてファックスで問い合わせ、原告らが、これに対する回答をファックスでしたことが認められる。

原告は、PTの右行為は、原告らに代金支払の方法等の情報提供を求めたものに過ぎない旨主張する。しかし、仮にPTが現地買主への売主であれば、PTが自己の取引に関する商品の送り先や勘定表への記載方法について、原告らに質問することは通常考えられないから、原告の右主張を採用することはできない。

(三) 前記(一)、(二)の事実によれば、原告らが、IMKに対して、PTを介さずに、現地買主との間で、取引の内容及びその履行状況、債権債務の内容を詳細に確認し、取引の履行方法を交渉し、決定していたこと、原告らが、PTに対して、取引の内容、PTが採るべき措置について、細かな指示を与えていたことが認められる。

3  見積送り状の性質

(一) 証拠(乙四・五・六・一六・一七・二五の各1、2)によれば、原告は、IMKとやりとりをした前記2(一)(1)の書面の中で、見積送り状に記載された取引番号によって、取引の内容、履行状況を確認し、見積送り状を相互に送付した後に、この内容によって代金の支払や商品の船積み等が履行されていることが認められる。

(二)(1) 原告らが、本件取引について付した海上保険の保険金額について、その大半が見積送り状に記載された売買価格の一一〇パーセントの価格であるのに対して、送り状に記載された売買価格との対応関係はないことは当事者間に争いがなく、証拠(乙三、八)によれば、日本における輸出業者の多くが利用する保険金額が取引価格の一一〇パーセントであることが認められる。

(2) 原告は、見積送り状に記載された売買価格を保険金額の算出基準にしたのは、本件取引が商品を現地に直接輸送するものであり、商品の滅失等によって輸入者に生じる損失を海上保険によって補填するためには、輸入価格を基準に保険金額を算出する必要がある旨主張する。

しかし、原告らが直接現地の者と売買契約を締結してする取引が、本件取引の他に多数あること、送り状に記載された価格が、見積送り状に記載された価格の約九割前後であることは前記のとおりであるから、原告らは、PTを買主として介入させた場合には、現地買主と直接取引をした場合より更に多額の保険料を負担することになるところ、原告らがPTに代わってこの増加額を負担する合理的な理由はないのであって、原告らがこの増加額の負担についてPTと何らかの交渉をしたことを認めるに足りる証拠もない。

したがって、原告の右主張事実によっても、見積送り状が本件取引の内容を示すものであることを否定できない。

(三) 証拠(乙一〇の1ないし3、乙二二、乙A一九・二一の各1、2、六〇の1ないし4、六一の1ないし6、六二・六三の各1ないし4、乙B一〇三の1、2、一〇四の1ないし4、一五九・一六一・一六二の各1ないし4、一六五の1ないし3、一六六・一六七の各1ないし4、一六八の1ないし3、一六九の1ないし4、一七二の1、2)によれば、原告らが、昭和五八年三月二五日付けで、同年一月から二月までの本件取引について勘定表を作成し、昭和五九年一月一〇日又は同月一一日付けで、昭和五八年一一月から同年一二月までの本件取引について船積報告書を作成したこと、この勘定表や船積報告書には、見積送り状記載の番号ごとに取り引きした商品名、数量、売買代金額が記載されていること、勘定表や船積報告書に記載された売買代金額の一一〇パーセントの金額が、保険料請求書に記載された保険金額に一致するものが少なくないことが認められる。

(四) 証拠(乙B一六三の1、一六五の一)によれば、原告らが昭和五八年六月二日付けでIMKとの間で売買契約書を交わしたことが認められ、これと証拠(乙一〇の1、乙B一六〇の1、乙一六三の2、3、乙一六五の2、3)によれば、この売買契約書に記載された取引内容は、船積報告書、勘定表と一致し、売買契約書に記載された売買代金額は、保険請求書に記載された保険金額を一・一で除した金額に一致することが認められる。

(五) 証拠(甲A一ないし二二・二四・二六ないし八三の各3、甲B一ないし七・九ないし一二・一四ないし一七・一九ないし四三・四五ないし五五・五七ないし六七・六九ないし七九・八一・九八・一〇〇ないし一一一・一一四ないし一三八・一四〇ないし一四八・一五〇ないし一五二・一五四・一五六・一五八ないし一六〇・一六二・一六三・一六五ないし一七八・一八四ないし一八七・一八九ないし一九一・一九三ないし二〇五・二〇七ないし二一〇・二一三・二一四・二一八の各3、乙Aの一・五・七・九ないし一二・一六ないし一八・二〇・二四ないし二六・三一・三五・四五・四六・五一・五五・五六・六〇の各1、2、六一の1ないし4、六二・六四・六六・六七 六九・七一ないし七三・七九・八〇・八三の各1、2、乙B三の1ないし6、四の1、2、五の1ないし4、六の1、2、七の1ないし6、八・九・一一・一五ないし二〇・二五・三四・三八ないし四〇・四四・五〇・五四・五六ないし六〇・六四・六七・六九・七一・七二・七五ないし八一の各1、2、九八の1ないし3、一〇〇ないし一〇二・一〇五ないし一〇八・一一三・一一五の各1、2、一二〇の1ないし4、一二四・一二五・一二九・一三〇・一三四・一三五・一三七ないし一四〇の各1、2、一四六の1ないし4、一四七・一四九・一五二ないし一五四・一五七ないし一五九・一六一・一六二・一六六・一六八・一六九・一七一・一七四・一七九・一八一ないし一八四・一八八・一八九・一九三ないし一九九・二〇一の各1、2、二〇三の1ないし8、二〇六ないし二一二の各1、2、二一四の1ないし6、二一六・二一九の各1、2)によれば、見積送り状に記載された作成日付が、輸出報告書に記載された前受金入金日よりも遅いか又はこの日に極めて近いものが多数あることが認められ、輸出報告書が商品の船積みの段階で作成されることは前記のとおりであるから、見積送り状が、本件取り引きの交渉が成立し、履行に至る段階になって作成される場合も多いことが認められる。

(六) 原告は、送り状がPTとの本件取引に関する契約書であり、見積送り状は見積書に過ぎないと主張する。

(1) しかし、本件取引が現地に直接輸出するものであり、船積書類の一つとして送り状が作成されること、この送り状に現地の者が記載されているが、PTの名が記載されていないことは前記のとおりであるから、本件取引において船積書類として作成された送り状は、PTを介さずに直接現地に送付されたというべきである。

原告は、この送り状がPT又はPTの指示により第三者に送付されたと主張するが、これを認めるに足りる客観的な証拠はないから、原告の右主張を採用できない。

(2) 原告らが、本件取引にかかる商品の仕入原価や売買価格等を記載する帳簿として、インボイスブック(乙一一の1ないし5、三三の1ないし4)を作成しており、これに記載された仕入価格が正確なものであることは当事者間に争いがないところ、証拠(乙A八、二二、二三、二七、二八の各2、乙一一の1ないし5)によれば、仮に原告らがPTとの間で、送り状に記載された売買価格で取引をしたとすれば、インボイスブックに記載された仕入価格より送り状に記載された売買価格が低くなる取引、つまり赤字取引が多数生じることが認められる。

原告は、赤字取引はサンプル販売等の販売戦略上生じ得るものであって、赤字金額の合計も赤字取引の売上額の約三パーセントに過ぎないと主張する。しかし、証拠(右(五)で掲記の乙A及びBの各証、乙一一の1ないし5)によれば、見積送り状に記載された売買価格は、その多くが原告らの仕入価格より高額であることが認められるから、見積送り状に記載された価格で現地買主に販売された場合には赤字取引がほんとんど生じないといえるのであり、また、原告らの主張する赤字取引の必要性についてもこれを具体的に認めるに足りる客観的証拠はない。

(3) 原告らが、現地の代理店であるアマナットの指示等によって、商品が船積みされた後に売買代金額等の異なる複数の送り状を作成していたことは当事者間に争いがなく、証拠(原告代表者ハンスラジ・カルヤンジ・カンジの尋問の結果)によれば、この複数作成された送り状のうち、どれが正確に作成されたものであるかは、客観的に区別できないことが認めらるれから、証拠として提出された送り状の内容を直ちに信用することはできない。また、送り状が通関に必要な書類であることは当事者間に争いがないが、このことから直ちに送り状に記載された売買金額が実際の取引のとおりであるとはいえない。

(4) したがって、送り状が契約文書であるとはいえないから、原告の右主張を採用できない。

(七) 右認定の事実によれば、見積送り状は、通常は見積もり段階で作成されるものであるが、本件取引においては、契約内容を示すものであり、契約文書というべきである。

4  取引相手に関する原告らの認識

(一) 取引書類における取引相手の記載

(1) 原告らが本件取引について作成した見積送り状、送り状、輸出報告書、勘定表等の取引書類には、取引相手として現地の者が記載されており、PTが記載されていないことは、当事者間に争いがない。

(2) 原告は、送り状、輸出報告書における取引相手の記載は、荷受人つまり商品の受領者であるに過ぎず、実際の現地買主と異なる場合もあるから、本件取引の買主であるとは限らないと主張する。

しかし、証拠(乙九)によれば、実務上、輸出報告書の買主欄には、買主と荷受人が異なる場合には、買主と荷受人を併記する取り扱いとなっていることが認められるところ、原告らの代表者が十数年間、商品の輸出業に携わっていることは当事者間に争いはなく、同人らが実務における右取り扱いを知っていたといえるから、PTが本件取引の買主であれば、荷受人のみを記載することは不自然である。

また、荷受人として記載された者が実際の買主と異なるとしても、現地の者が荷受人として記載されていることに変わりはないから、このことから直ちに本件取引の買主が現地の者であることを否定することはできない。

(二) 代理店契約書の存在等

(1) 原告らが、PTに送付した書面の中で、PTを代理店又は資金提供者と呼んでいたこと、原告らとPTとの間で、本件取引について、売買契約書等が作成されていないことは当事者間に争いがなく、証拠(乙一三、一四、証人迫部英一の証言)によれば、原告らが、昭和五九年二月に本件税務調査が始まった当初は、担当職員に対して、PTが代理店である等と説明していたが、右調査が進んだ段階に至ってPTが本件取引の買主であると主張するようになったこと、原告が昭和五七年七月二〇日に、太平洋商会が同年九月二〇日に、それぞれPTとの間でPTを代理店とする契約書を作成したこと、この契約書には、PTを介した取引について、その内容に応じて三%ないし一〇%の手数料をPTに支払い、PTが融資などの追加サービスをする場合には、手数料の増額を考慮する旨の条項が記載されていることが認められる。

(2) 原告は、原告らがPTを代理店又は資金提供者と呼んでいたのは、PTから資金援助を受けること等を経済的な意味で表現したのに過ぎないのであり、また、代理店契約書は、税務調査の際に、調査担当者から勧められて作成したものに過ぎず、実際の契約関係を示すものではないと主張する。

しかし、証拠(証人サンジェイ・ハンスラジ・ラジポパットの証言、原告代表者ハンスラジ・カルヤンジ・カンジの尋問の結果)によれば、原告らの経営者は少くとも十数年にわたり日本製品の海外輸出に携わってきたことが認められるのであって、このような者が、取引相手である買主と取引相手の斡旋等をする代理店との区別ができないとは通常考えられない。

また、仮に原告の右主張のとおりであったとしても、原告らがPTを取引相手として認識していなかったことに変わりはない。

(三) 前記(一)、(二)の事実によれば、原告らは、本件取引がなされた当時、現地買主を取引相手と認識しており、PTを取引相手として明確に認識していなかったといえる。

5  PTの営業実体

(一) 証拠(乙一二、証人サンジェイ・ハンスラジ・ラジポパットの証言)によれば、PTの経営者マヌ・ケー・ラジは、原告の代表取締役ハンスラジ・カルヤンジ・カンジの弟で、原告らの役員であるサンジェイ・ハンスラジ・ラジポパットの甥であること、PTが、原告に対し、一億円の貸金をしていることが認められ、原告らとPTが密接な関係にあると解される。

(二) 原告は、PTの顧客別売掛帳を証拠(甲A八四ないし八七、甲B二二〇ないし二二二)として提出しているが、右帳簿は本件取引の一部に関するものに過ぎず、その他の本件取引に関する売掛帳、原告らとの取引を示す買掛帳等の帳簿は証拠として提出されていない。また、右帳簿に記載された取引相手は、見積送り状の買主欄の記載、送り状の荷受人欄の記載と異なるものが多数認められることからみて、右帳簿の信用性には極めて疑問がある。

原告は、現地の代理店であるアマナットの指示などによって現地買主が見積送り状や送り状に記載された者と変更される場合があると主張する。しかし、このような理由により買主が変更された場合、その旨の記載が帳簿に記載されるのが通常であるのに、当該帳簿にその旨の記載は見られないから、原告の右主張を直ちに採用できない。

(三) 本件税務調査が始まったのは昭和五九年二月であることは前記のとおりであり、証拠(証人迫部英一の証言)によれば、原告ら及びPTが、税務調査の際に担当職員からPTの帳簿類を提示するように指示されたことが認められるから、遅くともこのころには、PTの帳簿類を作成する必要性を認識していたこと、前記(一)の原告らとPTとの密接な関係からみて、原告らがPTに対して帳簿類の提出を求めて、PTがこれに応じることはそれほど困難ではないといえること、前記顧客別売掛帳が証拠として提出されたのが平成三年五月二〇日であり、本件訴訟が提起され、PTが本件取引の買主であるかどうかが問題になってから、かなりの期間を経過していることも併せて考慮すると、PTが、本件税務調査後も、本件取引についてPTの帳簿類を作成していなかったといえる。

(四) したがって、右認定の事実によれば、PTは、原告らから独立した営業実体を持っていないとの疑いが極めて強い。

6  本件取引の態様について

(一) 以上の1ないし5の事実及び弁論の全趣旨によれば、本件取引の態様は、おおよそ次のとおりであると認められる。

〈1〉原告らが、現地の代理店アマナット等を通して、現地買主との間で売買交渉をして、取引の内容を確定し、その際、取引の内容を確認するために、必要に応じて見積送り状を作成して、現地買主に送付する。〈2〉現地買い主が、原告らに対し、信用状の開設又は現金の前払いによって売買代金を支払う。〈3〉原告らが、商品を現地に向けて船積みし、その際、通関手続に必要な書類として船積指図書、送り状、輸出報告書等を作成する。

(二) 原告は、アフガニスタンが政治的、経済的に不安定な国であり、現地買主の代金支払能力に不安がある場合に、代金支払いを確保するために、PTを買主として介入させて、PTから代金の前払いを受ける必要があると主張する。

(1) しかし、原告らがPTを介入させずに現地買主と直接行った取引が多数あることは前記のとおりであり、本件取引においても、当初はPTを介さずに現地買主と直接売買交渉をしていたことは当事者間に争いがないのであるから、PTが本件取引の買主であるというためには、原告らが、現地買主の代金支払能力の有無を、いつ、どのように判断し、PTを介入させることにしたのかについて、具体的な理由を主張立証するべきである。しかるに、アフガニスタンが政治的、経済的に不安定な国であることが直ちにこの具体的な理由に当たるとはいえず、他に具体的な理由を認めるに足りる証拠はない。

(2) また、証拠(乙四の1、2、五の1、2、一九、二〇、二六、二七、証人マヌ・カルヤンジ・ラジの証言、原告代表者ハンスラジ・カルヤンジ・カンジの尋問の結果)によれば、取引番号TD-八〇五及びTA-六四四の二つの取引において、代金のうち少なくとも大半が現地買主からPTの銀行口座に振り込まれた後に、原告の銀行口座に振り込まれて、原告らが商品の船積みをしたことが認められ、他方、原告らがこの取引についてPTからの前受金として帳簿上記載したことは前記のとおりである。

右認定の事実によれば、本件取引の中に、原告らがPTからの前受金として帳簿上記載されているにもかかわらず、実際には現地買主からPTに代金が支払われた後に、PTから原告らに代金が支払われたものがあることが認められる。

(3) 一般に海外取引において、買主が信用状(L/C)を開設した場合、売主はその取引銀行に必要書類を呈示して代金の支払いを受けることにより代金の支払いが確保されることは、当事者間に争いがないところ、証拠(前記3(五)で掲記の甲A及びBの各証)によれば、本件取引の中には、現地買主が売買代金のうち大半の部分について信用状を開設した取引があることが認められ、これらの取引において代金不払いの危険は極めて少ないといえるのであるから、この場合にまでPTが介入する合理的な理由を認めることはできない。

また、本件取引のうち、現地買主が売買代金の一部ついて信用状を開設し、残額について送金するという併用取引があることは当事者間に争いがないところ、仮に、本件差額がPTの収益であるとすれば、送り状等に記載された売買価格と信用状が開設された金額との差額がPTから原告に支払われた額ということになるが、証拠(前記3(五)で掲記の甲A及びBの各証)によれば、PTの収益がPTから原告への支払額を上回る取引が併用取引のうち約三分の一もある等、PTが通常の中間買主としてはあり得ない高率の利益を上げることになる取引が多数あることが認められる。

(4) したがって、右認定の事実によれば、本件取引において、原告らが代金支払いを確保するために、PTを買主として介入させる必要があったとはいえないから、原告の右主張を採用できない。

(三)(1) そして、前記1ないし5及び6(一)(二)の事実を併せて考慮すると、PTは、本件取引において、代金受領や原告らの帳簿作成といった原告ら補助的な役割を果たしているに過ぎないというべきであり、右認定を左右するに足りる証拠はない。

(2) 原告らは、PTが、本件取引において現地の代理店アマナットに対する手数料を負担しており、現地買主から売買代金が支払われなかった場合にその危険を負担し、現地買主からのクレームにすべて応対していると主張する。

しかし、原告らがアマナット等の代理店を介して本件取引について交渉をしていたことは前記のとおりであり、その手数料を原告らではなくPTが支払ったことを認めるに足りる客観的証拠はない。

また、証拠(証人マヌ・カルヤンジ・カンジの証言)によれば、現地買主が代金を支払わなかった場合に、原告らがPTに対して代金支払いを請求したことがないことは認められるが、同様のことはPTが原告らから独立した取引主体でない場合にも生じ得るのであるから、このことから直ちにPTが代金不払いの危険を負担しているとはいえない。

さらに、PTが現地買主からのクレームに対応していたことを認めるに足りる客観的な証拠はなく、仮にそのとおりであるとしてもこのことからPTを本件取引の買主ということはできない。

7  香港の課税事情

香港が法人所得に対する課税を軽減している国であることは当事者間に争いはなく、証拠(証人サンジェイ・ハンスラジ・ラジポパットの証言)によれば、原告らも本件取引当時にこのことを認識していたことが認められ、本件取引における買主をPTだとすれば、本件差額を香港に所在するPTの利益にすることにより原告らへの課税額を軽減することができるのであるから、前記1ないし6の事実を併せて考慮すると、原告らが、本件取引から生じた所得に対する課税額を軽減させるために、PTが本件取引の買主であると主張している疑いが強い。

8  まとめ

以上のとおり、本件取引の態様及びこれに対する原告らやPTの関与の状況、見積送り状の性質、原告らの取引相手に関する認識、PTの営業実体等を総合して考慮すると、本件取引の買主は現地買主というべきである。

三  争点2(売買代金額)について

1  見積送り状が契約文書であること、船積報告書、売買契約書の内容が見積送り状の内容とほぼ一致すること、原告らが現地買主との間で勘定表により債権債務を確認したことは前記のとおりであり、弁論の全趣旨によれば、乙A八、二二、二三、二七、二八の各1、2、の送り状については、見積送り状として使用されていたことが認められる。

したがって、これらの文書(以下「見積送り状」などという。)が証拠として提出されている場合は、右文書に記載された代金額が、本件取引における売買代金額であると認めのが相当である。

ただし、輸出された商品の内容、数量については、船積書類である送り状の記載が見積送り状より正確であるといえるから、送り状に記載された商品の数量が見積送り状等の記載より少ない場合は、送り状に記載された内容によるのが相当である。

2  そして、本件取引に付された海上保険契約の保険金額の大半が見積送り状に記載された売買価格の一一〇パーセントの価格であること、本件取引において、勘定表、船積報告書、売買契約書に記載された売買金額と、保険料請求書に記載された保険金額を一・一で割り戻した金額とが一致しているものが多いことは前記のとおりである。

そこで、見積送り状等が証拠として提出されていない場合は、保険料請求書に記載された保険金額を一・一で割り戻した金額を本件取引の売買代金額とするのが相当である。

ただし、保険料請求書が、証拠として提出されていない取引については、証拠(証人迫部英一の証言)によれば、本件税務調査において、担当職員が保険料請求書等で保険金額を確認して、これをインボイスブックに転記したことが認められるから、インボイスブックに記載された右金額を保険金額として、これを一・一で割り戻した金額を売買代金額とするのが相当である。

3  以上の方法により認定した本件取引の売買代金額は、別表二の〈1〉売買代金額欄記載のとおりであり、売上計上漏れの金額(円)は、次の算出式により同表の〈5〉売上計上漏れ金額欄記載とおりになる(取引時の一米ドル当たりの円の為替レートが同表の〈4〉欄記載のとおりであることは当事者間に争いがない。)。ただし、売買代金額及び申告額を円建てで算定した取引については、売買代金額と申告額との差額か売上計上漏れ金額になる。

(算出式){売買代金額(米ドル)-原告主張額(米ドル)}

×(売上計上時の一米ドル当たりの円の為替レート)

4  これに基づき算定した売上計上漏れ金額は、太平洋商会の昭和五七年九月期分を除いて、被告が本件処分で認定した額(但し、本件裁決により取り消された部分は除く)と一致するか、これを超えている。

しかし、太平洋商会の昭和五七年九月期については、算定した売上計上漏れ金額一億四二八八万二九九〇円は、被告が本件処分で認定した額(但し、本件裁決により取り消された部分は除く)一億四二九一万六一三八円を下回っている。したがって、右事業年度に係る処分について、右金額から算定される所得金額を超える部分について取り消されるべきであるところ、右事業年度の所得金額は、次の算定式から二億二七五六万三〇一二円になる。

(算定式)所得金額=申告所得額+売上計上漏れ金額

=84,680,021+142,882,990

=227,563,011

5  なお、原告は、予備的に、IMKとの取引について、PTが買主でないとしても、この取引に関する本件差額は、PTが原告らに売買代金を立て替えて支払ったり、現地の代理店等に対して手数料を支払ったりしたことに対する支払い手数料であるから、損金に算入されるものとして課税対象にならないと主張する。

しかし、PTが、売買代金を立て替えたり、現地の代理店等に対する手数料を支払ったりしたと解することができないことは前記のとおりであるから、原告の右主張は前提を欠き採用することができない。

四  以上によれば、本件差額は、本件取引における売買代金額に含まれるべきものであるから、これを売上計上漏れとして所得金額に含めて、課税対象にした本件処分は、太平洋商会の昭和五七年九月期の処分を除いて適法であるが、右事業年度に係る更正について、所得金額二億二七五六万三〇一一円を超える部分は、太平洋商会の所得を過大に評価したものであるから違法であり、また、右事業年度に係る加算税の賦課決定のうち右所得金額に対応する部分は違法である。

第四結論

よって、原告の本訴請求のうち、原告の昭和五七年九月期の更正について原告の申告した所得金額三一〇万七六七五円を超えない部分及び太平洋商会の昭和昭和五七年九月期の更正について太平洋商会が申告した所得金額八四六八万〇〇二一円を超えない部分の取消しを求める部分は不適法であるからこれを却下し、太平洋商会の昭和五七年九月期の処分について、所得金額二億二七五六万三〇一一円を超える部分の取消しを求める限度において理由があるからこれを認容し、その余はいずれも理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法九二条但書を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 下村眞美 裁判官 細川二朗 裁判長裁判官辻忠雄は、退官につき署名押印できない。裁判官 下村眞美)

別表一

本件処分等の概要

一 原告に対する処分

1.昭和57年9月期

〈省略〉

裁決での所得金額=(申告所得金額)+(売上計上漏れ)

=3,107,675+7,060,893

=10,168,568

2.昭和58年9月期

〈省略〉

裁決での所得金額=(申告所得金額)+(売上計上漏れ)-(未納事業税) (注2)

=-15,275,828+38,626,502-584,790

=22,765,884

3.昭和59年9月期

〈省略〉

裁決での所得金額=(申告所得金額)+(売上計上漏れ)-(未納事業税)

=-4,681,906+13,834,390-3,442,290

=5,710,194

二 太平洋商会に対する処分

1.昭和56年9月期

〈省略〉

2.昭和57年9月期

〈省略〉

裁決での所得金額=(申告所得金額)+(売上計上漏れ)

=84,680,021+142,916,138

=227,596,159

3.昭和58年9月期

〈省略〉

裁決での所得金額=(申告所得金額)+(売上計上漏れ)-(未納事業税)

=-23,939,891+59,440,588-16,437,240

=19,063,457

4.昭和59年9月期

〈省略〉

裁決での所得金額=(申告所得金額)+(売上計上漏れ)-(未納事業税)

=-14,351,664+33,045,468-3,835,560

=14,858,244

(注1)各裁決における重加算税の取消額は、重加算税に代えて過少申告加算税が賦課されたことにより、この差額が取り消されたものである。

(注2)未納事業税は、本件更正処分に伴い増えた納付すべき事業税を所得金額から減算したものである。

別表二

本件取引一覧表

一 原告

1.昭和57年9月期

〈省略〉

一 原告

2.昭和58年9月期(その1)

〈省略〉

一 原告

2.昭和58年9月期(その2)

〈省略〉

一 原告

2.昭和58年9月期(その3)

〈省略〉

一 原告

3.昭和59年9月期(その1)

〈省略〉

一 原告

3.昭和59年9月期(その2)

〈省略〉

二 太平洋商会

1.昭和57年9月期(その1)

〈省略〉

二 太平洋商会

1.昭和57年9月期(その2)

〈省略〉

二 太平洋商会

1.昭和57年9月期(その3)

〈省略〉

二 太平洋商会

1.昭和57年9月期(その4)

〈省略〉

二 太平洋商会

1.昭和57年9月期(その5)

〈省略〉

二 太平洋商会

2.昭和58年9月期(その1)

〈省略〉

二 太平洋商会

2.昭和58年9月期(その2)

〈省略〉

二 太平洋商会

2.昭和58年9月期(その3)

〈省略〉

二 太平洋商会

2.昭和58年9月期(その4)

〈省略〉

二 太平洋商会

3.昭和59年9月期(その1)

〈省略〉

二 太平洋商会

3.昭和59年9月期(その2)

〈省略〉

二 太平洋商会

3.昭和59年9月期(その3)

〈省略〉

二 太平洋商会

3.昭和59年9月期(その4)

〈省略〉

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